スポーツ新聞を小脇にかかえて

 タイ、北部国境の山岳地帯。 美しい自然に恵まれている分、それは厳しい貧しさにあるということだ。

 ヤイルーンという名の少女はそこに生まれ育ち、10歳を迎える。
 ヤイルーンはマフィアに売られ、バンコクの売春宿に引き取られる。
 監禁され、幼児性愛者に買われ、やがてエイズを発症し、生ゴミと一緒にゴミ袋に詰められて、捨てられる。
 少女は生まれ故郷にたどり着く。
 だが、生まれた家ではなく、村にそびえる大きな樹木の根元であった。
 巨木の懐に包まれ、ヤイルーンは、はじめて、ようやく、安らぎのぬくもりに抱かれ、昇天していく。

 映画「闇の子供たち」の中の一つのシーンである。
 人身売買、売春、マフィア、臓器売買、途上国の貧困、そして先進国にある、日本の臓器移植などの実体が重層して描き出されている。 重く忌まわしく、目をそむけたくなる。 生ゴミの中に捨てられても、ヤイルーンは巨木の精霊に守られ救われたのだ。


 スポーツ新聞を小脇にかかえてカウンターに座ると、焼酎を飲みはじめる。 モツ焼きをうまそうに噛みくだいている。 スポーツ新聞の三面記事をなめるように追っている。 無言だ。 三杯、四杯とグラスを空にすると、スゥーと立ち上がって出て行く。

 まあ、木枯らし紋次郎みてぇな奴だなと俺は小さな声で言い放った。

 紋次郎が立ち去った向い側の席に、近頃にはめずらしい程の勤勉実直そうな青年二人がいた。

 「いまの人、よく来るんですか?」
俺「そう、時々で、忘れない程度の間をおいて。」
 「映画監督の阪本順治さんですよ。」
俺「と言われても、映画監督なんて、黒沢明しか知らねぇもん。」
 「その人、もう死んじゃった人でしょ。」
 「現役で、バリバリ映画作っている人ですよ。」
 「遅れてますねぇ!」と、その二人の若者に痛打されて、俺は阪本順治を認識することになった。 以来、日本の映画界を牽引している実力者の作品は見ることにしている。

 そして、今回の作品が「闇の中の子供たち」でありました。



≪追記≫
婆娑羅では秋の味が色々出ています。
カキ、白子、サンマ炭火焼、からみ大根 などなど。

そして、要望の多かった婆娑羅のダシの取り方を写真で紹介します。 参考にして下さい。



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