この女達は唯でさえ行儀がよろしくない。 ケラケラと明るく酒を飲んでいうるうちは、いくらでもいる多少大胆なオバさんである。やがて、酔いが回ってくると隣にいる客の誰彼となく話しかけ、にぎやかになってくる。
はずみによっては、バカ騒ぎの会話を俺にまでふる。 「えっ、おじさん長崎なの!」 「私もよー!」 「大沢さんはどこぉー!」 と言った調子で、仕事をしていて忙しいなどお構いなしなのである。 全く周囲に配慮出来ない反社会性まる出しのババァになってしまう。 たいがいの場合、二人連れは一方のどちらかが抑制する方にまわるのだが、この二人は相乗作用してしまうのだ。 「うるせぇなあ」と思いつつも、粋がったセリフが言えないのがこの家業。 うつむいて歯をかみしめる。 やがて、大団円をむかえた。 一人の女がフラフラの足取りでトイレから戻ってきた。 勘定をすることになった。 しこたま飲み、たっぷり食べ、二人で八千円程の金額になった。 「えっ!何でそんなに高いのよ」 「そうよ、そんな飲んでないわよ」 一人の女は呂律がまわっていない。 俺の頭はハレーションを起こして思考停止状態になった。 顔をながめた。 あきれて物が言えない状態とはこういう時のことなのかと、妙に合点がいった。 「俺はこの店でお客さんから高いだなんて言われるような いい加減な商売はしていない。」と、きっぱり言い切ったのだが、馬の耳に念仏だった。 酔っ払っているから 「高い」 「そんな飲んでない」のくり返しなのである。 伝票の明細を読み上げたが、それでも「高い」 「そんな飲んでない」をくり返した挙句、ようやく財布を広げた。 お金は投げ出された。 俺はそのお金を恭しく手にとって深々と頭を下げた。 無言だった。 この女達はいつ、どこで、こんな醜い無礼を身につけてしまったのだろう。 どのような幼少期を過ごしたのだろう。 どのようにして男と恋をしたのだろう。 何事かをしでかす女を猛女と呼ぶが、俺の中でこの女達はある種の猛女として刻み込まれた。 <追記> 猛女列伝なるタイトルで手配写真のように顔写真を公開したい程、俺の気持ちはおさまっていない。 高地の名酒 亀泉 生じめの平目 |