大晦日、大阪に向かう新幹線に乗り込むと すぐに眠りに落ちた。 花園ラグビー場のグラウンドの緑の芝生の上で、国学院久我山の選手達がとびはねている。 スタンドいっぱいの観客から 大歓声がわき起こる。 選手達の顔には歓喜の涙があふれている。 列車が静かに止まった。そこは名古屋だった。よだれが出そうな夢だった。夢は正夢になるという。 だが、その夢はかなうことはなかった。高校最後の花園は 目論見とは違う結果で散った。 我等は力なく 近鉄電車に乗り、大阪駅に向かった。 飲む酒の味気なさよと言葉少なに呟き合った。 「まだ、大学があるヤン」 「また、花園で試合があったら 来たらエエネン」 と、大阪の友人がしみじみと慰めてくれる。 ぶらり横丁という飲屋街の 正月でも開けていた一軒の店に 俺達はおさまった。 「クシャクシャの泣き顔だったな」 「そうや、あいつの泣き顔みたら もらい泣きしてモロタ」 という。 こんな時の大阪弁は 染み入るような優しいイントネーションを漂わせる。 7人も座ればいっぱいになってしまう カウンターだけのうらぶれたその店は、大阪駅地下街の片隅にあった。 数軒の店がひしめいているところが ぶらり横丁 と名打たれているのである。 主が一人でやっている。 ヤキトリ、オデン、串揚げ、さしみ、などなど 何でもござれである。 「ロクなもん出てこねえだろう」と無言で合槌をうった。 ところが である。 出てくるツマミ、どれもこれもがよろしい。 加えて値段もよろしい。 我等の沈んだ心持は またたくまに料理の湯気とともに消えたかのようだった。 飲食によってもたらされる癒しの力(ちから)ワザを、いきなり享受した。 牛スジのやわらかい煮込み、うるめイワシの小さな丸干、ブタのバラ肉の串揚げ、鳥肉のツミレ焼、その間に生のキャベツをバリバリかじり、熱燗の日本盛をグビグビ飲み、又飲み、思い出したように ついでにラグビーの試合の話をした。 敗れ散って泣き崩れた息子達には申し訳ないが、俺達大人は思いがけぬ“ぶらり横丁”で、思いがけぬ正月のおめでた気分を楽しんだのである。 追伸 ノロウィルス騒動で 扱いをやめていた能登カキを再開したいと生産者の宮本水産に電話した。 苦境おして知るべしである。 これから一層おいしくなる生食でのカキは、完全に出荷停止ということであった。 カキによってノロウィルス被害が出ると 日本全国のカキ生産者に風評被害が及ぶのが怖いということでした。 今季はカキの生食はおあずけということです。 |