寸劇 男の友情 その一場面

 「お前、好きなもの 注文しろよ。」
 「別に、何が食べたいってないから お前につき合うよ。」
 「そうか、じゃあ 俺が決めるよ。」

 そう言って、片方の男が 色々な酒の肴を素早く注文する。
 その傍らで、もう一人の男は ニコニコしながら 料理の一つ一つに合槌をしている。

 二人、快活に語り、おいしそうに噛みくだき、グイグイと飲んでいる。

 「お前、1本残っている串 食べていいぞ。」
 「いや、もう俺 3本 食べてしまったから、お前 喰えよ」
 「最後に 1枚残っているシメサバ お前 食べるか。」
 「いや、俺 他の料理 注文するから、お前に ゆずるよ。」

 酒場のカウンターのシーンで、まるで、夫婦のように息の合った 40代か50代の男達の 語り合いである。

 「そろそろ、帰らないと いかんだろう」
 「俺なら大丈夫だ。 お前 もう少し飲みたいんだろ。 遠慮するな。」
 「うん、ならば もう一杯」

 実際の酒場では、ありそうでない風景である。

 一枚のシメサバを皿に残して、ゆっくり 酒を飲み、その次に、シメサバを楽しむつもりでいると、いきなり 横からハシがのびてきて、最後のシメサバは掠奪される。 おおよそ、俺の飲み友達は そんなものだ。
 「うん、ならば もう一杯」 などと ねばれば、「何に気取ってんだ。 早く切り上げて 女房、子供のところに帰りな。 ダラダラしてんじゃねえ。」 と一喝される。

 俺は、男の友情が うらめしい。



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