息子のラグビーの試合を観るために、しばしば東京朝鮮高級学校に行く。その学校は埼京線の十条という所にある。 あたりは在日朝鮮の人達が多く、街の風景がエキゾチックなのだ。そして、駅すぐの路地を入った所に “斉藤酒場” と書かれた、古い古い暖簾の、うらぶれた飲み屋が気になって仕方なかった。 たいがいラグビーの試合は日曜日なので 斉藤酒場はやっていない。 だが、ついにそのチャンスがやって来た。 祝日の日だった。 試合などよりも斉藤酒場の暖簾をくぐることに心が躍り、店の開店と同時に入った。 見事!俺の想像した通りの酒場であった。昭和という時代の残響が漂い、酔う者を優しいアナログの世界に導いてくれる。 旨い料理を願ってはならぬ。 ここは大衆という酒場のなのである。 落ち着きを願ってはならぬ。 ここは日銭を握って酔ぱらいに来る所なのだ。 白衣のオバさんがやさしい笑顔で、酒とつまみをすぐに運んでくれる。色々なシミや手垢で染め抜かれたテーブルにコップ酒が置かれる。 俺は山谷の労働者がやったかどうかは知らないが、口をコップの方にむかわせてグビッと口いっぱいに酒を吸い込んだ。 清酒大関が、俺には越の寒梅よりも旨く思えた。 深くため息をついて、店の中をゆっくり眺めた。 ああ、来て良かった。と、心の底から思った。 また、十条にラグビーの試合を観に来よう。 何よりも斉藤酒場に来たいから。 石巻にあがったミンク鯨の生肉 店の前は桜の街路樹、緑が力強く茂る |