若い衆4人

 近所の雑居ビルの小さな入口からガラのよろしくない若い衆4人が出てきた。いずれの方もきちんとスーツを着ているが、普段に見かけるサラリーマンのように穏やかさがない。 とげとげしく険しい。 サッと見ないように見て素早く通り過ぎた。
こんな所にも事務所があるんだなあと、妙に好奇心が湧いた。

 金曜日、店はいっぱいの客で賑わっていたが、真ん中の時間帯の9時頃に空席が出来た。 その一瞬に若者4人が入って来た。
お見事!あの雑居ビルの若い衆4人である。
みえざる俺の力でたぐり寄せたように、その翌日に現れるとは。
俺と若い衆との因果を認めなければと思った。
若い衆はガラは悪いが、不快な無礼を働くわけではないから。 多くの客の中の一組なのである。
 話の内容から商いの中味が容易に推察できた。 街金融である。互いは支店長、課長、主任と呼び合い、豪勢で派手な暮らしぶりを披瀝したりしている。 支店長と呼ばれている男の腕には、おうよそその年には似つかわしくない金色のロレックスが燦然と輝いている。

 額に汗水流して働いていては、何年かかっても手にすることの出来ぬロレックスや車がものになるなら、あこぎな街金融も何のそのである。 格差社会が助長され、その勢いは少しもとどまらない。 昔なら、若い衆の4人がいくらはんぱ者でも、喰らいつける仕事が色々あった。 嫌で飽きたら、色々な仕事を渡り歩く、世の中に懐の深さがあった。 だが、この格差社会は、荒んだ、せこいアウトローをどしどし生み出している。

 街金融で生き残れない者はどこに行くか。 せこいアウトローはもっとせこくなるしかないのである。 その先にあるものは、狭い部屋の片隅で携帯に泣き声を出して「オレだよ、オレだよ」と言って、金をだまし取る。
乞食を一日やったらやめられぬ、のたとえ、その世界にふみ込んだら、もはや、まっとうな労働などクソくらえなのである。
格差された者は世間の道理からはずれ、非道を生きる。

 沢山のはんば者が街に繰り出して色々と悪さをする。 格差社会は同時に犯罪多発の社会だ。 それが我等に課せられた代償なのである。
 色々な仕事をしている人が集まる飲み屋。 地道なサラリーマンばかりが来るような健全な飲み屋はあるだろう。 だが、俺はそのような健全は嫌いだ。 不届き者と健全が隣り合うのが飲み屋だ。
やがて、奇妙な連鎖がそこに生まれる。 そんな時、格差は解消され、人間同士なんだなあという幻想を、俺は見た。

 4人の若い衆は、もう来ることはないだろう。 なぜなら、やばい生業は長く続くはずはないから。 一つ所に居続けることが出来ないのである。

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