婆娑羅の寅さん

浮世ばなれした夫婦がいる。
もう何年も前から、月に一度くらいやって来る。
ダンナという人は、バックスキンの鳥打帽を得意げに目深にかぶり、ダンディを装う。 語る口調にダンディと野暮が入り交じり、加えてベランメェときてるから、ほとんど寅さんなのである。

従って、そこにはマドンナがいなくてはならぬ。
そのマドンナ、50も半ばと見えるが、肌が白く、色ツヤがよい。 強めのルージュが少しも嫌味ではない。 そして、よく飲み、よくカラカラと笑う。
マドンナの奥さんが俺に話を向けた。

「大沢さん、お正月はどうしてたんですか?」
「花園でラグビーを観ていました」
「わざわざ、花園まで?」
「息子が出ているものですから」

「ええっ?」と、マドンナの驚嘆。
それからこの夫婦のラグビー談議が始まった。

 寅さんは、おおよそスポーツ観戦など全く不似合いで、赤鉛筆片手に競馬予想に明け暮れる男だとばっかり思っていたら、大間違いだった。
有名選手ばかりではなく、地味で、良い仕事をするリザーブの選手にまで話が及ぶ。 果ては選手の星座まで言い放つのである。

「ところで、息子のポジションはどこだ?」
「12番のセンター」
「いいねぇ、突っ込んでいくヤツだ。 男はいつでも突っ込んでいかなくちゃぁ」
「下品な言いまわし、やめてよ!」と、マドンナが詰め寄る。
すると、寅さんが
「何言ってやがる。12番ってのは、ゲバ棒もって最初に機動隊に突っ込んでいくようなポジションなんだ。」と、のたまう。

はっはぁ と俺は、ひとりうなずいた。
寅さんは かってゲバルトの学生(全共闘)と見た。 年の頃もピッタリあてはまる。 だが、その部分の話題に切り込むのはやめた。

「ボールを蹴って、あっち行ったり、こっち行ったり、犬みたいにチョロチョロしている連中には悪いけど、知性を感じないね」と、言い及ぶと、独断偏見、勝手放題で自論を展開、そして終了。
まあ、まことにアクの強い全共闘世代の酒でありました。

それにしても、終始、やんわりと合づちを打ちながら、寅さんをコントロールするマドンナは、したたかな女でもありました。

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