夫婦の有様、不仲なのか うまく付き合っているのか 他人の眼から うかがい知れぬところに妙味がある。何十年も連れ添っても、尚、ベタベタと若い恋人達のように ウヌボレテイル夫婦などあるかも知れぬが、気味悪くて見たくない。一見して バランスを欠いている間柄だなあと ながめていると どっきりするような仲の良い仕草をする夫婦がいる。 あるいは 最早 修復かなわぬ 冷めて 無関心な気配を漂わせたりの人も見る。 先日の土曜日、50も半ばの似合いの夫婦が来た。 二人とも身ぎれいで さっぱりした風情で理知的である。 夫はビールを注文し、妻は飲めないのか お茶であった。 少しの料理を注文して、二人は静かにだまった。 夫はだまったまま手にしていた本をひらき、ビールを口にはこびながらページをめくっていた。 妻もだまったまま ほほづえをついて、あらぬかなに眼をやりながら露骨に退屈している。 ここで横道にそれる。 俺はほほづえをつく女の仕草が大嫌いだ。 無気力で無礼、生きている女の色気がない。 そして、物事を思考しない女の怠惰を見る。 その二人は料理を口にはこびながら なおも黙っていた。 二人の沈黙に心を奪われながらも、他のお客さんの注文をさばいていた。 3、40分たったところで二人は出て行った。 「ありがとうございました」と言っても二人はだまったまま出ていった。 俺は深いため息を一つだけついて気分を立て直した。 小さな小さな いさかいが あの夫婦の口をとざしてしまったのだ。 ふだんはもっと快活で ユーモアがあり、良い夫であり、優しい妻なのだ。 広く深い愛情をもって子育てをなしとげた父親と母親なのだ。 わずかな歯車のズレが、今の二人を沈黙させてしまったのだ。 かく言う俺も、しばしば女房を罵倒する 否、されると まる一日位は沈黙する。 そして何事もなかったかのようにして日常が始まる。 故に、この夫婦は大丈夫なのである。 大丈夫でない夫婦は一緒に連れだって酒場に来る なんてことはしないからだ。 いずれにせよ夫婦のいさかいを酒場に持ち込んではならぬ。 酒場は公(おおやけ)の場と心得よ。 |