クロカワのずっしりとした カバンが カウンターの下に 置かれていた。 金曜日の夜は ふけて 客はひとり残らず帰った。 カバンには ぶあつい書類が つまっていた。 ひとめで それが重要であることが わかった。 防衛庁 関係 極秘と あった。 持ち主に 連絡できる 名刺などを カバンのなかに 探った。 Y電機の方であった。 カバンを とじて しっかり保管しておこうと おもった 瞬間に 電話が 鳴った。 さっきまで 酔って 楽しげに 語り合っていた様子からは 想像できない あわてふためいた声だった。 翌日 そのクロカワのカバンは 公開されることなく 何事も なかったように 主のもとに かえった。 黒い紐に つながれた 名札が 落ちていた。 社員証であった。 巨大な コンピューター・メーカーの社名 と その人の顔写真 と名前 そして役職までが わかる。 加えて わけありな数列が しるされている。 ある金融関係の 社員証などは キャッシュカードの 機能まで 仕込まれている。 それ故 無限の 悪用にさらされている。 酔っていると どこで落としたか 不明で 特定できない。 記憶のかぎりを ひっぱり出し その時の 状況をおもいだそうと 必死だ。 失礼と 思いつつも 中身を拝見して 落とし主への連絡を いそぐ。 少しでも 早く めくるめく不安を 払拭してあげたい と思う。 個人情報も 企業情報も 悪用を たくらむ者には 宝である。 夢々 油断なさるな。 今朝の 仕入れ 小樽の 甘えび 富山の ほたるいか 外房の さより |