世界はなぜ地獄になるのか、新書の広告にそんなタイトルがあった。 生きるとはいつもすれすれにあるキケンととなりあわせだ。 さつりく、ごうだつ、なんて普段ほとんど使われない言葉が軽くとび出してくる。 「あれ、まあー、あんたずいぶん物騒な言葉を知ってるねぇー。」 孫とおばぁちゃんの他愛ないお喋りにだってとびだす。 そこかしこの地獄。 天変地異、戦争、いつおさまるのかロシアとウクライナの戦争。 増々、とおのく終りへの希望。 戦局は高度、複雑になり大がかりな武器、戦略が登場して戦争はより高度になったように思える。 戦いをやめるという兆しが見えない。 しまいまで戦ってもてる力と能力が涸渇するまできそい合うというのでしょうか。 だとしたら、この勝負はじめからわかっている。 軍事解説A氏は「やっぱり大国ロシアの底力ですねぇ」 と言切る。 一方の解説者、プーチンの国内基盤の強さですね。 などとおっしゃる。 大方の意見は大国ロシアの殺戮力と強奪力の勝利をみとめていらっしゃる。 ああ、だからこそ解説の分析にプーチン苦境の言説があったらいいなあ、なのです。 連日の猛暑にしめ上げられて大国ロシアへの悪口雑言も少し勢いなくし、週末のお客さんも静かだ。 もはや一年以上もたつと戦争の話は下火だ。 人間の不幸に はやりすたりもあるものか。 唯、夕暮れともなれば冷えたビール、ゴクリとやりたくなる。 店内はすでにお客さんでいっぱいだ。 戦争話しも強ダツもサツリク話しもない。 おだやかな笑い、グラスふれ合う軽い喧騒、37度という猛暑だけが心地悪かった。 ところが、どうにも心地よろしくない女の人の声で間断なくきこえて来るススり鳴くとひとりお喋り。 その出どころはすぐにわかりました。 3人のよき社会人、良識派勤労者風とお見受けいたしました。 ところがその内のおひとりの女の方が少し酔っている。 そして、ひとりツブヤキ、おおいに自分の苦労ばなしをひとり言しているのでした。 仲間に語るではなく、眼先を下におとし念仏をとなえるようにひたすら語っているのです。 そして悪いことに、となりに座っている客は男の一人客でいかにもおいしそうに一人酒を楽しんでいるといった方だったのです。 一方のツブヤキ女性はひとり苦労話、上司いじめられ秘話、家庭内痴話などなど、「この方一体どうなされましたか」 問いただしくなったのです。 そうは言わず、「少しだけ声のトーンを下げていただけますか?」 たいがいはこの一言でトーンは下がります。 あるいは会話が一時停止いたします。 しかし、残念ながら一件落着にいたらず、ツブヤキ女性は少しもひるまず、己の身上話にみがき続けるにいたりました。 まずは隣り席の一人酒君に 「スマナイねぇ」 の合図を送り、3人組の勤労者さんに強行発言をいたそうとした その時に、何んとツブヤキ女性さんは後ろにのけぞって座っている丸太の椅子からころげ落ちてしまったのです。 同時にツブヤキは止みましたが、どこやらを打撲したようす。 事さらに痛がっているではなくふらふらと店から出て行きました。 そして不思議だなあと思った。 この3人組に互いを助け合いかばい合うの所作がなかったのは日頃の怨念! 三人を見送りながら 「よけいなことだけど、三人で飲んだりしない方がいいよ! そして、一人酒の兄貴、又、来て下さい。 静かに飲んでいただけるよう用意いたします。」 2023 夏 |