三回目のワクチンも済んで、老いの肉体に活を入れた気分だ。 蔓延防止の条例も解除されて、いよいよ商売商売とシリをたたいてやる気いっぱいだ。 客足も上々だ。
特に週末は若者のカップルが多く、花見帰りの冷えた体を熱いコップ酒でグイっとあたために来る。 幸せな光景だなぁと思いつつ、店の小さなテレビにウクライナの惨状が映し出されている。 幸福な気分をだいなしにするような意地悪をしたわけではない。 この日本からはとても遠い、ウクライナとでっかい国のロシアの隣りどうしで、すざましい戦争がはじまっているのだ。 熱い酒も、桜咲く春も、寒冷地の雪の戦場も、夜空に炸裂するミサイルの火焔も、同じ地球上の同時刻の出来事であるのだ。 ニュースの画面に一人の男が映し出されている。 巨大なサッカースタジアムに十万人の若者を集め、国家、国民を讃え、戦場にある兵士を鼓舞し、スタジアムに集められた若者を大いに煽動して、「この戦争は防衛のためなのだ」 と宣言し、かっての同盟であった国を、おそらく同盟であったからこその近親憎悪がこの男の心をワシズカミしてしまったのか。 「ねぇ。 このヒト怖い! 無表情!」 恋人同志の二人はそっとみつめ合う。 店の中は満席に近い、だのに注文をする声だけがひびく。 神妙な雰囲気が店の中に漂っている。 若者の心の内は知らない。 口元に酒をはこぶ仕草が重い。 間を置いて片隅の年配の男二人がつぶやく。 「ウクライナっいう、いい女に肘鉄くらったのがプーチン・ロシアってことかよ!」 「だってよぉ、何にがそんなに憎くって、ウクライナの国を無差別にぶち壊すんだょ!」 「こんなに多勢の人を殺しておいて、いまやっつけておかねぇとロシアがやられて、せめこまれるって本気で言っているのか。 妄想、猜疑心、神経衰弱、あの男、色々なうたがいがあるな。 恋人の彼が言う。 「強大な権力者は皆、孤独なんだそうな。 秘密、機密にがんじがらめで、しかも絶えず暗殺者にねらわれている人間、そんな人生を生きぬくっていうのは並みの人間のできることじゃないから。」 「じゃあ、普通でいてねぇ。」 と甘える。 画面のその男はスタジアムいっぱいの若い群衆に向ってロシアの国旗をふり讃同の大いなる喝采をあびていた。 「自由にものが言えないなんて、とてもこわい!」 「この男、きらいなんて言ったら、それだけで、さあたいへんだ。」 ささいなことの積み重ねでロシアという国の密告体制ができあがったのだろう。 この戦争はそこの部分をさらけだしてくれた。 しかし、ハイブリットな戦争は死者の数を圧倒的にふやしている。 死者とともに世界中の国、地域、個人の暮しにどしどし襲いかかっている。 色々な食材がなくなっている。 物価の上昇がすごい。 こんなことも戦争が世界に波及しているということ。 そんなどれもこれも些細なこと。 ウクライナ人の血と汗と涙そして破壊された国の惨状を思うと。 果して、ウクライナの黄色い美しくたくましきヒマワリ、咲いてください。 どうかキーウの落ち着いた街、街、街の復活を祈っております。 わざわいは天変地異よりも 2022年4月3日
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