婆娑羅神降臨

 どんなに強く硬いものでも打ち砕く杵、その杵をいまこそ荒々しくふりまわせ。 婆娑羅神の力を人々のため、世界のため災厄に苦しむ人のために婆娑羅神よ、悪をにらみつけ、悪を吹きとばしウィルスに化けている悪をこらしめ退治してくれ!

 人間かなわぬ敵にあいまみえるとなれば神仏にすがりたくなる。 そして、新たなる婆娑羅神が店にやって来たのである。

 2020年の大晦日、東京のコロナウィルス感染者が一千人を超えた。 医療に従事している人々は泣き叫ぶように緊急状況をうったえている。 首都圏の四知事が緊急事態宣言の要請をしている。 収まる気配なくジワリ、ジワリとその感染の波が静かにせめよって来る。 嫌な気分がはらいおとせない。 なんとかならねぇのかなぁー。 静かに、家にとじこめられた正月だ。 忌々しいったらありゃしねぇと嘆いているところに、この婆娑羅神は現れた。

 大きなふろしき包みをかかえて「ごきげんよう!」 快活に声高らかに入場だ。 いつも元気な村上さんは武蔵野市の中学校で先生をなさっている方だ。 と同時に自宅アトリエで大きな作品を制作しては、例えば岡本太郎美術館における公募展などに出品してはグレートな賞をいただいている本物の作家なのです。

 正月休みで店じまいのバサラにふろしき包みをかかえた村上さん 「勝手に持ちこんで来たんだけど」 ふろしきをバサリとひろげて中身のモノを開示したのでした。 何んと、何んと、怒り心頭に発するの、ど真ん中の婆娑羅神の顔があらわれたのです。 みだれた頭髪はゆらゆらと逆立ち、見開いた両の眼で憎っくき者をにらみつけ、地鳴りのような叫び声で悪を罵倒する。 というべき迫力たっぷりの像なのです。 細い麻縄をつむぎ、より分けて、幾重にもかさね合せる。 麻縄の荒々しい手ざわりに原始的な素材が加えられ、面はより強さをあらわしていた。

 「よろしければ、おおさめ下さい。」 と村上さんの慎ましきお言葉であった。 素材、そこに投入された情熱と技。 純粋な宗教的こころざし、衆生救済の心をその像に打ち込んだという言葉はなかったけれど、大いなる不粋を覚悟の上で「村上さんに五十万円の借りを作ってしまった。 時間をかけて返します。 どうか見守ってやって下さい。」 とだけ申し上げた。

 その日から、婆娑羅神は店の左手、天井の少し下の台におかれ、訪れ来たるお客さんをながめながら守護、加護の無言行を静かに実践していただいている。

 コロナウィルスの感染やむことない不安の毎日の今日この頃、なすべきに迷う我等民草をどうかよろしくネェ とはにかみながら少しだけこうべをたれた。

<追記>
 美術作品や工芸作品の値段というものがわからないから、根拠なく言ってしまったけれど、村上さんの仕事ぶりのすごいところはその像が納まる空間、つまり店の広さ、天井の高さ、店の明るさ加減をしっかり考慮して作品をこしらえているのです。 この神さん前からいたっけ! バサラってこんな顔だったんですねぇ! まあーたよりになる男っぷりなこと。 本来、なじむとは時間がかかることであるはずなのに、このバサラさんは一気呵成にやって来て、ドーンと鎮座した。

 

祓いたまえ! 清めたまえ! と日々となえるつもりであります。

                      2021.1.3日

尚、バサラは1月末日までコロナウィルスの状況をかんがみ
積極的休業を致します。

緊急事態宣言を受け2月7日まで休業致します。
皆様のご無事を祈っております。


                       大澤 伸雄


トップページへもどる

直線上に配置