市場の食堂から

 ほぼ、毎朝八時半、魚の仕入れを終えて食堂のいつもの席につく。毎日変わる朝の定食が楽しみである。そして、いつもの面々がいればとあたりを見る。
実は、近頃その面々がいなくなった。個人で営む魚屋、食料品店、飲食店が廃業においこまれ、仕入れに来なくなった。 色々な男達がいた。名は知らない、その一人、朝飯をたべながら大声で女との情交を得意満面で語ちゃたりする。アウトローだから当然、務所暮らしもご経験である。前科を伏せることなく、高らかにその歩んで来た過去も平然と語ってしまう。その男の店もつぶれたという。
 いつも食堂の奥の席でスポーツ新聞を読みながら朝飯を食べていた、ゲンさんと呼ばれていた無口な男。町の小さな食料品店を夫婦二人で営んでいたが、たたんだという。だいの巨人ファンであった。だから、巨人が負けると無口が一層無口になる。余談だが、市場に来る商店主のほとんどは巨人ファンである。
 そんな面々に変わって、仕入れ専門の業者がいるが、その方々は食堂でゆっくりして無駄話に興じたりしないから、必然食堂はひっそりしている。いまや、私は食堂で古参の一人であり、上客であると自負している。なぜなら、本来、セルフサービスの麦茶を、そこのお姉さんは必ず持って来てくれる。ささやかではあるが、幸福とはそんな一瞬によぎるものである。 今朝も色々な面々が出たり入ったり。
 しかし、奢れる者ひさしからずや、自戒の念をこめ、いつまでもこの食堂でうまい朝飯がいただけますように、、、、。油断なさるな。

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