馬場ひさおさんという人類の成り立ちを研究なさっている方が大好きだ。 声も心地よい。 喋りも軽快でうまい。 ラジオから聞こえてくる声だけで、なんだかずい分以前から友達だったような親しさを覚える。 それでもって上野にある国立科学博物館へと行った。 馬場ひさおさんご本人に会えるわけではないが、思い込むと会えそうに考え込んでしまうのが性分だ。 博物館に展示されている人類の進化をながめる。 450万年前アルディビテクス猿人が人間につながっていくであろう者として立っていた。 300万年前の猿人、150万年前の原人、50万年前の旧人、10万年前の新人(ホモサピエンス)まで、変化とどうのように生存をはたしていたのかを教えていただいた。 ジャングルや砂漠や岩穴など世界中のいたるところに出向いて行って骨を掘り当てる。 「人類700万年 私たちはどこから来たのか」 これが馬場ひさおさんの生涯の仕事である。 俺の昨日、今日、明日など はずかしくて 何にも語ってはいけない気分になる。 700万年前 700万年前、ようやく人間らしくが35万年前、それからの数日俺は呪文のように700万年と35万年を繰り返しつぶやいていた。 ああ何という時間だ。 理解できない時間、歴史という時間の闇の奥に展開される時間、まあ、そんなもんだにしておく。 眉間にシワ寄せて、悩んでる風、考えている風、さとってる風に気取っていたら、サッポロビールの若い営業マンに 「おじゃましてすいません。」と、背後から声かけられ、返事の代わりについ「35万年」 と口走ってしまった。 「いや、ちがいますよ。35年ですよ。」 そう言われりゃこの12月3日は開店した日だった。 35万年前を想うと、35年なんていうのは みみっちい時間の量で 「まあ、俺からすりゃあ たいした歴史じゃねぇな」 とうぬぼれた。 「記念日ですよ! 何か祝事やりましょうよ! 35周年! お手伝いしますよ!」 世の中にはおめでたい事が大好きで 毎年記念日をこしらえて騒々しく盛り上げている人もいる。 盛り上がらなきゃ損だとばかり無理矢理 踊ったり歌ったりと大変だ。 俺は空騒ぎするくらいなら12月3日の夜、見えるわけもない夜空を見上げ、金星探査機「はやぶさ」 いまごろ何しているだろうか、どんな作業をなさっているのかなあと夢想する。 そんなふうにして一人の夜空をながめて、無言の空騒ぎの方が俺にはぴったりだ。 そしたら 俺みたいな男もいるもんだ。 その方は毎朝5時起きして愛犬をともなってまだ暗い夜明け前の散歩に出かけると言う。 以下 愛犬との会話 「なあポチ(犬の名前はたいがいこれだ)よ! 今度 生まれて来たら人間になれよ。 俺は次 生まれて来たら犬になるからな。 そしたら又 この星空を一緒に見ような。 俺とお前はもっと心がわかりあえるぞ。 雨が降っても、雪の寒い朝も、必ず散歩に連れてってくれよな。 約束だぞ ポチ!」 この話しを聞いて、俺はやめにした。 35周年なんて みみっちいことはつまらない。 35万年の人類時を夢見よう。 愛犬とともに広大な星空に遊ぶほうが心は豊かだ。 生きとし生けるものに死があるのは定理だ。 ポチも又 その定理の上に生きている。 2015年 12月29日まで営業 |