スナック族 襲来

 この方々には、それとすぐわかる特徴がある。 夕暮れの早い時間に3人4人のグループでいらっしゃる。 従順そうな男を従えてにぎやかに登場する。

 “何がおいしいの”などと側近の女に訊ねたりしている。 聞きかじった情報をさも知っているかのように答える側近がすぐに「ヤキトリ」と答えている。 男達も側近も自分の欲するものを持たないから その中心の女が発言するのを待っているだけだ。 女の注文する酒や料理に頷いている。 そのグループの調和なのだから、それでよい。

 たいがいの場合、女は実にメリハリのきいた化粧をして、年にしては釣合の取れない赤すぎる口紅をぬりつけている。 かっぷくのいい肉体と、そこから発せられる太いだみ声。 デンジャラスなセレブなカラフルな衣装。 スナックのママはこうあるべきだという法則にちゃんと適合している。
 それは小さな暗いスナックの店内においては適合しているのだが、明るくざわめいている飲屋では実に異彩なのだ。 あいにく、バサラには女帝が鎮座できるような空間がない。
 次第にそのグループが店内ではかっこうが悪いという、すまない気分に落ち込んでいるみたいで、”俺も仕事だ” とばかりに、元気よく おいしく飲みましょうとはっぱをかけた。 のがよくなかった。 火をつけた。 女帝のくすぶっていたエネルギーに点火してしまった。 女帝というものは一度発火すると、自らの非業悪行なんのそのだ。 もう「私の天下だからね」なのである。

 中国の古典史記に登場する女帝で高祖なる帝の夫人である呂后(りょこう)いうおそろしき女がいた。 何故すごいかというと歴史にその名を刻むほどに偉大なる殺人者なのである。 自らの手を汚すことなく、その者をけしかけ、あの者を始末していく。 「煮殺」 「喰殺」 「閉殺」 「糞尿沈殿」 など、頭がくらくらして思い描きたくない方法まで発明していく女帝の顔も、こんなに厚い化粧とエネルギーに満ち満ちていたんだろうなあ。 と 俺は連想した。

 どうして従順な男達は女帝と飲み歩いたりするのか。 どうして側近は黙っているのか。
 そこかしこにスナックがあり、その巣窟には夜な夜な隠微に生息しているスナック族が群れている。 善良な人々が暗く狭い店の中で怨歌にあぶられて女帝を取り囲む。 慣れ親しんだ優しい世界があるんだろうなぁ。
 俺はそんなのは嫌いだ。
 暗く、狭いところで群れたり、和合したりは 妬み、嫉み、陰口に充分御心配ください。 余計なことか!

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