緑内症の手術から1か月がたった。 おぼろげに光と物が見えるようになった。 眼圧も下がり、うっとうしい眼の有様は相変わらずだけれど 日常の生活に戻れた。 殆んど片目なので右サイドの視野がどうにも狭い。 だから本能的に首を右に回して左サイドを確認する動作が確実に身についた。 それでも時々は忘れてしまい、右に移動したりすると人にぶつかる。 店のカウンターの中では一日に何回もぶつかる。 「ああ、いやになっちゃうなぁ」 と自分を嘆く。 「大丈夫です、わかってますから。」 と言って慰めてくれる。 こんな時は本当にうれしい。 手術をしてくれた大介先生は40才位のやり手満々の人だった。 初診の時、「ウ〜ン」 と重いため息を聞いたけれど、それ以外 ひとことも無駄なことは言わない。 端的に、こうだから こうします。 そして、こうなりますから こうしましょう。 とだけ言って、「退院まで10日かかります。」 と言い切って終わった。 俺はこういう無駄のない冷静さが大好きだ。 大介先生は信頼という、医師として 備えていなければならない印象を見事に具現していた。 俺は心の中で「頼りにしてまっせ!」 とつぶやいた。 やがて、手術を受ける前の視力に回復する というのが俺の願いではあるが、それは “なるように なる”(ケ・セラ・セラ)なのである。 それでも今日4月21日現在 俺の右眼は新緑の美しい緑をとらえている。 形状はなくても緑の光だけで幸福だ。 子供の頃、夏の夜の花火の光が生々しく左眼に飛び込み、一瞬にして失明した人の話。 「私も右眼、見えてないんです。」 と軽やかにニコッと笑って言ってのけた若い娘。 忌まわしい事故で左眼を失っても尚よく学び、よくスポーツをこなし、勇々しく生きる若者に励まされる。 ああ、何んと幸せなことであるか、ありがたいことでありました。 深謝。 |