とりかえしのつかないヘマをやっちぇまった。

 「オヤジさんよぉ、東北に遠征したこないだの試合 知ってんだろ。 被災地の人達を励ますというんで岩手県の地元での開催となったんだ。
 チーム全員バスに乗り込んで、東北に向かったんだ。 被災した人達のことはバカな俺でも本当に大変なことだと思っているよ。 でもスポーツは勝ち負けで、いくら人々を励ますと言ったって、地震のことを思いながらグラウンドには立たないぜ。 やっつけて、たたきのめして、勝利することだけを考えているわけだからね。 それは、相手チームもまったく同じだ。

 試合が始まり、攻防が続いた。 一瞬の時、ボールに向かってしがみつき ボールを敵から奪ったと思った。 その時、試合をとめるレフリーのホイッスルが鳴った。 だから、俺は力をぬいて立とうと思った瞬間、でっかいフォワードの野郎に突き飛ばされて宙に浮いて、2、3メートルは転がった。 ホイッスルが鳴ってゲームがいったん止められた直後だったから俺は切れちゃったんだ。 何にも考えられなくて、俺の直情が爆発しちぇまった。

 「お前ら、地震であたま変になってなってじぁねぇか!」と一言。

 試合は負けて、終わった。 すぐにレフリーに呼ばれ、口頭注意を受け、ああ、俺もいけねぇこと口走っちゃったなぁと反省したよ。 チームの監督と一緒に相手チームがクールダウンしている所に行って、 “申し訳ありませんでした” と深く丁寧に謝って、相手メンバーの冷たい視線を全身に浴びて、勘弁してもらったと思ったのに、それは甘かった。

 数日後、マスコミの知るところとなり、社会的制裁というのが始まった。

 もう俺はどんな制裁でも受ける覚悟だった。 会社を解雇されてもと考えたよ。 チームの試合は停止されラグビー部の活動も休止、グラウンドでの練習も中止、チームの仲間の顔も見れない。 なんでこんなことになっちぇまったんだ。 俺の一言で、ああ とりかえしのつかねぇヘマをやっちぇまった。」


 ラグビーは文字通り肉弾戦だ。 平常心で戦っているようでは戦えない。 トランス状態の中での暴言など少しは寛容であって欲しい。 なのにマスコミは意地悪く叩く。 それ程のことかよ。 あんまり正義ぶるなよ。 若者は充分苦しんでいる。 ラグビーというスポーツは仲間を大切に重んじる。 そんなスポーツに心血を注いで生きている者に、人の苦しみの解らぬ奴はいない。 その若者は被災者の苦しみを計り知れないくらい理解している。

 俺はにっこり笑って、もう苦しまなくていいよと言ってやりたい。

 世間よ、社会よ、、もっと寛容であれ!

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