On the heating night
酒乱 テロ

 蒸し暑い金曜日の夜だった。 忙しく、たっぷりと疲れていた。 11時もとっくに過ぎて表の燈りも消して、静かに片付け仕事をしていた。 カウンターにはちらほら10人ばかりのお客さんが残りの酒をゆったりと楽しんでいた。

 3人の男がなだれ込んできた。 先頭の男は以前に何度か来ているから、店の事は承知している。

 俺    「営業は終了しました。」
 その男 「飲ましてよ!」
 俺    「飲むだけなら。 もう終りなので。」

 と、ぞんざいに答えた。 次の瞬間、2番めの男が叫びだした。

 「テメエ、このヤロウ、それが客に対する態度かよ!
  オモテへ出ろ。 ジョウトウじゃねぇか。 俺に酒を飲ませねぇ、 そんな、えらい店かよ! テメエ、俺を何だと思ってる! 店に火をつけたろうか、三鷹で商売、デキナクしてやろか。 エー、エー、ドゲザしろ、ジュウショおしえろ」 などなど、普段、日常では耳にしない悪口雑言の連続なのである。

 店の外に出た。 男は俺の胸ぐらをワシ掴み、土下座しろと叫び続ける。 目をひんむいて、口角泡を飛ばし酒の匂いがムンムンする。 何かにとりつかれたように興奮は一向に収まらず、増すばかりだ。 だが、こんなやり取りを10分もしていると酒乱男のお里も知れてくる。 怒り面がバカ面に見えてくる。 俺は力を抜いて胸ぐらを掴んでいる腕に身をまかせた。 すると今度は、
 「ヘラヘラしやがって、何ニヤケてんだよ。 俺をなめてんのか!」と、来た。

 次の瞬間、男は力をこめて俺をヘッド・ロックした。 酔っ払っているからロックがあまかった。 だから俺はその男の背中を少しだけ押した。 倒れた男は前よりも一層、狂気して叫びはじめた。 

 と、そこにお巡りさんが3人駈けつけて来た。 異様な騒ぎを見た人が110番してくれたのだ。 お巡りさん3人と男は組んつほぐれつ、ドタバタしている。
 お巡りさんの一人が、「どこか痛いところありますか。」 「首とか腕とか。」

 それは、俺が痛いと言えば強制的にその男を保護してしまうという意味であった。 少しだけ意地悪してやろうかと思ったが
 「大丈夫です。 なだめて家に帰して下さい。」

 そして、その男の怒鳴り声が聞こえなくなるのに、それから30、40分はかかった。

 長い商売の中でパトカーが来たのははじめてだった。 酔っ払いの扱いは自信があったが、いきなりの攻撃には慌てた。

 金曜日の夜、楽しく飲んでいたお客さんには申し訳なく思いますが、防御出来ませんでした。 御免なさい。

≪追記≫
 あの男の目、でかかったなあ。 パンチパーマで金の首輪、指にも金がついていたなあ。 明日の朝、頭が痛くて、ついでに大声の出し過ぎで喉つぶれているだろうなあ。 などと想いながら、夜は終わりました。

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